海面下7,000メートルの資源に挑む。深海油田での石油生産を可能にするエンジアリング 海面下7,000メートルの資源に挑む。深海油田での石油生産を可能にするエンジアリング

PROJECT04 MV24-PROJECT
ブラジル国旗

クライアント:三井海洋開発株式会社(ペトロブラス社)
設備名:FPSOトップサイド
設備能力:120,000t/d
建設サイト:ブラジル・リオデジャネイロ

現在、資源開発の最前線は陸上から海洋へと大きくシフトしている。
海洋石油産出量は、世界の生産量の30%に達し、この割合は年々高まっている。
深海資源の調査、採掘などに新技術が果たした役割は計り知れない。
海洋での石油採掘が本格化したのは1970年前後で、当初は水深数十メートルの浅い海に桟橋のような固定式のプラットフォームを設置して掘削していた。
その後、海上に浮かべる浮遊式の生産設備の技術が進歩したことで、今では深海でも石油を産出できるようになった。
最近では新しく発見される油田の半分以上が海洋油田だ。
こういった状況のなか、現在も多くの油田開発プロジェクトが動いている。
そのうちの一つがここで紹介するMV24プロジェクトである。
FPSO TOPサイド(注1)の設計・調達・建設・据付をMODEC社(三井海洋開発)より MODEC社とTOYOのジョイントベンチャー(J/V)が受注。
エンドユーザーはブラジル石油公社(ペトロブラス社)。
シンガポール、ブラジルに拠点を設け、世界中のベンダーから機器や資材を調達。
同時にMODEC社は船体改造(中古オイルタンカーの改造)を行う。
船体とTOPサイドは最終的にブラジルでジョイントさせるという一大プロジェクトだ。

【注1】FPSO TOPサイド
FPSO船体の上部に据え付けられる精製設備、他のストラクチャーを指す。
ストラクチャーは複数のモジュールに分けて、工事・据付される。

ブラジル国旗 ブラジル

J/Vを設立、経理責任者として赴任

 MV24プロジェクトはMODEC社とのJ/V(MTOPS)で遂行する3番目のプロジェクトである。この前にはMV23プロジェクトを受注し、遂行していた。MV24はMV23でのレッスンラーンを活かしつつ、「水深2,000メートル、海底下5,000メートル」、「MV23の1.3倍の生産規模」というさらなる難関にチャレンジするプロジェクトになる。
 入社以来経理畑を歩んできた大和は、2010年2月にMTOPSで遂行する初めてのプロジェクトにJ/Vの経理責任者としてシンガポールに赴任した。J/Vとは、一つの会社をつくるようなもの。MODEC、TOYOそれぞれ、お金の使い方から仕事の仕方が違う中で、お互い妥協点を見つけ、ルールを作るのは至難の業だった。MODECのプロポーザル部門があるアメリカ。設計や調達を担うシンガポール。船体を造る中国。TOPサイドを船体へ据え付けるブラジル。どのような体制でJ/Vを組むか、慎重に検討を重ね、シンガポールにJ/V拠点を置く結論に達した。当初は、アメリカやブラジルにもJ/Vを設立するという体制も考えられた。J/Vを設立することで発生する経理処理や効率性を考えた上で、シンガポールにJ/Vを1社設立、プロジェクトを進めることとなった。
 経理の主な仕事となる会計で用いる通貨は米ドルであったが、機器の購入や工事業者との契約などは世界各国に及んだため複数の通貨を扱う必要があった。為替リスクヘッジに取り組み、時には現場と支払予定を調整。プロジェクト収支を圧迫させないよう、為替予約することで為替リスクのヘッジに取り組んだ。「ブラジルレアルの為替レートの変動が大きく、やり方次第で10数ミリオンドル単位で収支が変動してしまう。あれはかなりのプレッシャーだった」と当時を振り返る。

大和 武史
経理担当

TA&C
経済学部経済学科卒
1992年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

多国籍を取りまとめる

 EM(注2)EMEMEngineering Manager の略称。社内・外を問わず担当プロジェクトの設計を管理する。各設計の進捗度合いや、設計部署間の情報の取り合いが正確に行われているかを確認・管理する。として、BQの削減(注3)BQの削減BQBill of Quantities の略。作業量の指標として用いられる(配管の溶接作業量、ケーブルの敷設作業量、など)。
BQ を削減することはすなわちコスト減に繋がり、顧客からの支払金額が定められているランプサム契約の特性から利益が拡大する。
をはじめとする予算管理や品質保持、スケジュール管理、機器・資材調達などを幅広く手掛けているのが瀧花だ。FPSOはオイルタンカーの船上に原油分離設備を設置し、そこで分離されたオイルを貯蔵してシャトルタンカーへ積み出す。そのため海洋油田から陸上までのパイプラインを敷設する必要がなく、比較的短納期で運転開始が可能というメリットがあり、今後の海洋油田開発の主力とされている。
 「赴任当初から様々なチャレンジが多いこのプロジェクトをなんとか成功させて、今後のJOBの手本としたい思いが強かった。困難がたくさんあったが、だからこそそれを解決するためにTOYOの存在価値がある」と話している。
 FPSO建造は、船体の改造とTOPサイド製作が別々の場所でほぼ同時に行われる。その中では、予算内で図面を完成させることもさることながら、スケジュール管理が最も重要となる。このプロジェクトでは設計サブコントラクター(サブコン)とはコストレインバースの契約(注4)コストレインバースの契約コストレインバース契約コストプラスフィー(実費償還)契約とも言う。受注者が発注者(オーナー)の代行者としてプロジェクトを遂行・マネジメントし、発注者がコストを含めた責任を負う。オーナーの代行者であるため、アサインメンバーが個人毎に高い水準での業務遂行が求められると同時に常にアカウンタビリティーが求められる。オーナーは責任を負う一方、プロジェクトの進捗、遂行方法、プロジェクトリスク、予算など全ての状況を把握しておく必要があり、コントラクターと一体となりリスクの低減、コストの低減に関与する。を締結していた。コストレインバース契約では、サブコンは仕事をした分に比例して利益を生み出すことができる。そのため、収益を増やそうとサブコンはさまざまな業務に取り掛かろうとする。毎週上がってくるレポートの他、サブコンオフィスへは一日一度は顔を出し、密にコミュニケーションをとりながらプロジェクトを遂行した瀧花。「サブコンに全てを任せるのではなく、無駄な作業をなくし、プライオリティーをつけ、仕事してもらう。私たちの競争力は、自分たちが作るものを考え、それを図面に落とし込むマネジメント。つまり、サブコンにいかに質の高い仕事をさせるかというマネジメントが重要」。そのために、毎日の訪問以外にも毎週ミーティングを開き、ディスカッションすることでスケジュール管理を徹底していった。さらに「J/VにはTOYO以外の人間も多く、国もバラバラでまさに多国籍軍状態。そのため部下となるエンジニアたちに対しては『命令』ではなく『依頼』するというスタンスで接するようにしていた」という瀧花。問題点は特にじっくり話を聞き、一緒に解決していくことで各エンジニアとの信頼関係を築いているそうだ。

瀧花 洋一
エンジニアリングマネージャー(EM)

海外第五プロジェクト本部
工学部 航空学科卒
1998年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

【注2】EM
Engineering Manager の略称。社内・外を問わず担当プロジェクトの設計を管理する。各設計の進捗度合いや、設計部署間の情報の取り合いが正確に行われているかを確認・管理する。

【注3】BQ
Bill of Quantities の略。作業量の指標として用いられる(配管の溶接作業量、ケーブルの敷設作業量、など)。
BQ を削減することはすなわちコスト減に繋がり、顧客からの支払金額が定められているランプサム契約の特性から利益が拡大する。

【注4】コストレインバース契約
コストプラスフィー(実費償還)契約とも言う。受注者が発注者(オーナー)の代行者としてプロジェクトを遂行・マネジメントし、発注者がコストを含めた責任を負う。オーナーの代行者であるため、アサインメンバーが個人毎に高い水準での業務遂行が求められると同時に常にアカウンタビリティーが求められる。オーナーは責任を負う一方、プロジェクトの進捗、遂行方法、プロジェクトリスク、予算など全ての状況を把握しておく必要があり、コントラクターと一体となりリスクの低減、コストの低減に関与する。