1972年の日中国交回復依頼、140件を超える中国でのプラント建設実績。外資系No.1を名実共に備えるTOYOのプレゼンスをさらに高める結果となった。 1972年の日中国交回復依頼、140件を超える中国でのプラント建設実績。外資系No.1を名実共に備えるTOYOのプレゼンスをさらに高める結果となった。

PROJECT03 AIC-PROJECT
中国国旗

クライアント:三菱瓦斯化学株式会社
設備名:ポリカーボネート樹脂製造設備
設備能力:80,000t/y
建設サイト:中国・上海

2012月6月。
中国・上海に新たなポリカーボネート樹脂製造設備(年産8万トン)が完成した。
クライアントである日本の大手化学メーカーは日本とタイにポリカーボネートプラントを保有している。
本案件への投資金額は数百億円。
拡大する中国内需をビジネスチャンスと捉え、世界の多くの化学メーカーが同時期に中国進出しているなか、クライアントの合成樹脂事業部門にとって初となる中国進出は多くの期待と不安が入り混じっていた。
結果としては予定より2カ月前倒しで無事完工。
まさにこれまで培ってきた経験を活かしたプロジェクトであり「中国ならTOYO」を強固なものとした。

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TOYOならではの完成度

 同プロジェクトは、国内企業の海外進出案件としては当社でも当時最大規模。クライアントの合成樹脂事業部門とは初取引で、かつポリカーボネート樹脂(注1)ポリカーボネート樹脂ポリカーボネート樹脂プラスチック材料の一種。耐衝撃性・機械的強度が大きく、レンズ・コンパクト-ディスクをはじめ、機械部品・電気部品として用いられる。製造設備の建設も初めての案件だった。そういった背景のもと、PMの波山が特に重視したのはクライアントの信頼を得るということだった。
 「クライアントは同様の設備を日本、タイにも持っている。以前の2つは他のエンジニアリング会社が手掛けたにも関わらず、今回、従来取引がなかった当社に話が来たのは、中国での実績が高く評価されてのこと。中国における当社の実力を示すという意味で、絶対に成功させたかった」と言う波山。加えて当初から同設備の拡張計画も持ち上がっていたため、今後の繋がりを考えるうえでも品質やスケジュールという点で要望以上のものを、という意気込みで臨んだという。
 結果、最初の設計段階で危うく工期が延びる危険性が生じたものの、最終的には2カ月前倒しという異例の早さで完工し、クライアントからも高い評価を得ることができた。
 「後手に回るとすべてがだめになる。プロジェクト初期段階で多くのマンパワーを投入した。また、プロジェクト途中段階で問題が発生したときには、できるだけ速やかに思い切った手を打つように心掛けた。その結果として、工期短縮を達成することができたのだと思う。」と振り返る。
 PMとしてこれまで様々なプロジェクトを手掛けてきたが、同プロジェクトは特に満足できる仕上がりだった様子。「二期工事実施の際には、まず初めに声をかけてくれるでしょう。他のエンジニアリング会社では到底できないような仕事ができたと自信を持って言える」と語る波山の顔は実に誇らしげだ。

波山 正紀
プロジェクトマネージャー(PM)

プロジェクト第一本部
海外進出プロジェクトグループ
基礎工学部機械工学科卒
1978年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

【注1】ポリカーボネート樹脂
プラスチック材料の一種。耐衝撃性・機械的強度が大きく、レンズ・コンパクト-ディスクをはじめ、機械部品・電気部品として用いられる。

中国ベンダーとの深いつながりを見せることで、顧客の信頼獲得

 もちろん、初のクライアントという意味での難しさはあった。過去のプラント建設実績が顧客からの信頼度に大きく影響するエンジニアリング業において、それ以外の要素でいかに信頼を獲得するかが初受注への大きな分岐点となる。その岐路において見事に受注に導いたのが営業の大瀧だった。
 「クライアントの別事業部門とは取引実績があったが、合成樹脂事業部門との取引は初。まずはざっくばらんに話ができる関係を構築するまでが大変だった」。
 特に日本企業とのやり取りについては、欧米をはじめとする海外企業とはまったく異なる難しさがある。例えば欧米企業の場合、プラントの規模にもよるが、まずは引き合い内容がキングファイル30冊分ほどで提示される。TOYOとしてはそれにいかに応えていくかが勝算の分かれ目になる。一方で、日本企業の場合はその引き合い内容自体が確定していないことが多い。そのためクライアントと何度も打ち合わせを重ね、何を求めているのか、何をもっとも重視しているのかを引き出していく必要がある。要は、対欧米企業の場合は攻めどころが明確になっているが、対日本企業の場合はニーズを探るところからのスタートになるということだ。
 「今回のケースでいえば、TOYOは中国に強いという点を証明できれば受注できると判断した」という大瀧。そのため、クライアントの技術担当者を中国のベンダー企業に案内することを提案した。
 TOYOの最大の強みは、子会社に中国政府から認証された設計・工事資質(ライセンス)を持ったToyo-Chinaがあること。また、日中国交正常化から約40年間にわたって現地のベンダー、サブコントラクターと長年良好な関係を築いてきたこと。それを証明するために現地のベンダー企業の作業場や製品を直接見せて回り、中国において信頼のできる企業とのパイプの太さを強調した。結果、クライアントから大きな信頼を得ることができ、その後の交渉がスムーズに進んだという。
 正式に受注に至ったのは2009年。2001年に日本企業の中国進出案件の営業を始めた大瀧にとって最大規模の受注だった。「2001年当初は今回の10分の1にも満たない案件もなかなか取れず、2年ほどは本当に苦労した。それを思うと、今回の受注は非常に感慨深い」と大瀧は振り返る。

大瀧 浩雅
営業担当

国内営業統括本部
海外進出営業グループ
経営学部経営学科卒
1990年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

「要望に応えたい」という熱きエンジニア魂が粘り強さの源に

 同プロジェクトは2カ月前倒しで完工したが、実はプロジェクトスタート後の設計段階ではスケジュールから大幅に遅れていた。クライアントにとっては日本、タイに続く3つめのポリカーボネート樹脂製造設備であり、受注段階では「タイと同様のプラントを中国で建設する」というものだった。しかし、実際には2つの既設プラントで抱えている問題点をすべてクリアする最良の設備を作りたいという強い要望がクライアントから示された。
 その調整に当たったのが初のPEM(注2)PEMPEMプロジェクトエンジニアリングマネージャー(Project Engineering Manager)。プロジェクトの設計全体を統括する。としてアサインされた望月。「打ち合わせをやり始めてすぐに、『これは大変なことになったぞ』と思いました」と笑う。
 既設プラントでの問題点を聞き出し、それらを具現化するため図面にしていくが、いざ図面にしてみるとそれに対して新たな問題や実現不可能な点などが出てくる。それをクライアントに戻して妥協点を探り……という繰り返しだった。
 結果、設計が始まってから3、4カ月は連日のように打ち合わせが続き、議事録は270件に及んだ。「スケジュールがジリジリとずれてくる中で、焦る気持ちもありました。しかし、初めてのクライアントということもあり、なによりもエンジニアとして要望にできるだけ応えたいという思いが強く、絶対に妥協したくなかった」と言う望月。
 PMの波山もその思いをくみ取り、全体スケジュールを調整して動けるところから動くことで、可能な限り設計に時間を割けるように配慮していた。
 また、中国ではプラントを建設する際、国から認められた設計院(設計会社)が設計を行わなければならないルールになっている。中国では、『会社 対 会社』というよりは『個人 対 個人』で付き合う社会。日本の設計陣が設計院に駐在し、日本の設計の進め方と彼らの設計の進め方を調整しながら設計を進めていたが、日本の設計陣が帰ってしまうと彼らの設計の進め方に戻ってしまう。設計院が締め切り通りに動かずこのままではスケジュールに大きな影響がでると判断した時は、望月自身が足を運び、設計担当者と打ち合わせすることで少しでも早く設計図があがるよう尽力していたという。
 現在、プロセスシステム部で再び設計の仕事を担当している望月。「PEMとしてプロジェクトに関わったことで、プロジェクトをより幅広い視点でとらえられるようになった。設計をしていても現場の動きをリアルにイメージできるようになり、非常にいい経験になった」と話している。

望月 一慶
プロジェクトエンジニアリングマネージャー

プロセスシステム部
大学院工学研究科 移動現象工学専攻
1985年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

【注2】PEM
プロジェクトエンジニアリングマネージャー(Project Engineering Manager)。プロジェクトの設計全体を統括する。