オイルメジャー、シェルグループのエチレンプラント建設を成功裡に完遂。TOYOの実力を世に知らしめた一大プロジェクト オイルメジャー、シェルグループのエチレンプラント建設を成功裡に完遂。TOYOの実力を世に知らしめた一大プロジェクト

シンガポール国旗

クライアント:シェル・イースタン・ペトロリウム社
設備名:エチレン製造設備
設備能力:800,000 t/y
建設サイト:シンガポール・ブコム島

2010年9月に完工したシンガポール・ブコム島のエチレンプラント建設は、TOYOにとって大きな意義のあるプロジェクトだった。
年産80万トンのエチレン製造設備(投資金額約20億ドル(当時のレートで約2,300億円強))のEPCmサービスをコスト・レインバース契約で受注した。
世界でも最大規模のプロジェクトで、客先は世界最大のオイルメジャー、ロイヤル・ダッチ・シェルのシンガポール子会社シェル・イースタン・ペトロリウム社だった。
EPCmサービスコントラクターとして、安全、品質、スケジュール、コストを守り、同プロジェクトを無事完遂したことで、グローバルなトップエンジニアリング会社としての実力を世に知らしめることに成功した。

シンガポール国旗 シンガポール ブコム島の

コスト・レインバース契約を成功させるには、確固たる信頼関係が不可欠

 2005年。エチレンプラントのライセンサーであるオランダ・ABBルーマス・グローバルBV社(ルーマス社)からの一報がこのプロジェクトの始まりだった。シェルがシンガポールに建設するエチレンプラントを、ルーマス社との50:50のジョイントベンチャー(J/V)で手掛けることになったのだ。ルーマス社の本社があるオランダにJ/Vの本拠地を構え、まずは基本設計とプロジェクトの実行計画、EPCのコスト積算というプロジェクトの基本計画を1年がかりで練り上げ、客先の投資計画の承認(FID)を経て、2006年7月にプロジェクトが本格始動した。
 ルーマス米国本社とTOYOは50年以上に渡りエチレンビジネスにおいてパートナーシップを組んできた実績がある。しかし、今回手を組んだオランダ・ルーマス社とは実質的には初めてのアライアンスだった。
 加えて、同プロジェクトで特徴的だったのが、当社にとって初の大型コスト・レインバース契約(注1)コスト・レインバース契約コスト・レインバース契約 コストプラスフィー(実費償還)契約とも言う。受注者が発注者(オーナー)の代行者としてプロジェクトを遂行・マネジメントし、発注者がコストを含めた責任を負う。オーナーの代行者であるため、アサインメンバーが個人毎に高い水準での業務遂行が求められると同時に常にアカウンタビリティーが求められる。オーナーは責任を負う一方、プロジェクトの進捗、遂行方法、プロジェクトリスク、予算など全ての状況を把握しておく必要があり、コントラクターと一体となりリスクの低減、コストの低減に関与する案件であったことと、ルーマス社との50:50の対等J/V案件であったこと。
TOYOは過去にもコスト・レインバース契約を手掛けた実績はあったが、これだけ大規模なプロジェクトでコスト・レインバース契約を手掛けるのは初めてであった。コスト・レインバース契約のメリットはBidding期間(注2)Bidding期間Bidding期間コントラクター選定期間を指す。なお、本文では、ランプサム契約(固定価格での一括請負契約)のプロポーザルにおいて、コントラクターとベンダー間における引合書発行 - 見積受領 - 価格交渉など一連のコスト算定にかかる時間を短縮できる点に言及している。が短くて済むことであり、「なるべく早くプラントを完成させたいという意図がシェル側にあったと思われる」と PMプロジェクトマネジメントプラント建設プロジェクトでは通常、プロジェクトマネージャーを頂点としたプロジェクトチームが組成されます。非常に多くのヒト・モノ・カネが複雑に係わりあうプロジェクトにおいて、プロジェクトチームは設計から試運転に至るまで現場の状況を常に把握・分析・予測しながらプロジェクトを計画通りに推進していく、その司令塔の役目を果たします。予算、工期は勿論、チームの組織化及び運用、顧客やサブコンとの調整など、プロジェクト全体を統括します。 を務めた越川は言う。
 しかし、同契約方式にはデメリットもある。客先がコストとスケジュールのリスクを負うことになるため、方針決定にはその都度事情を説明し、客先の承認を得るプロセスが必要になる。承認されなければプロジェクトは前に進まない。そのため、承認プロセスの準備を怠らないことと、プロジェクトの早い段階に客先との信頼関係を構築し、承認までの手間と時間をどれだけ短縮できるかどうかがプロジェクト全体のスケジュールを大きく左右する。

越川 昌治
プロジェクトマネージャー(PM)

プロジェクト第二本部
生産工学部機械工学科卒
1980年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

【注1】コスト・レインバース契約
コストプラスフィー(実費償還)契約とも言う。受注者が発注者(オーナー)の代行者としてプロジェクトを遂行・マネジメントし、発注者がコストを含めた責任を負う。オーナーの代行者であるため、アサインメンバーが個人毎に高い水準での業務遂行が求められると同時に常にアカウンタビリティーが求められる。オーナーは責任を負う一方、プロジェクトの進捗、遂行方法、プロジェクトリスク、予算など全ての状況を把握しておく必要があり、コントラクターと一体となりリスクの低減、コストの低減に関与する

【注2】Bidding期間
コントラクター選定期間を指す。なお、本文では、ランプサム契約(固定価格での一括請負契約)のプロポーザルにおいて、コントラクターとベンダー間における引合書発行 - 見積受領 - 価格交渉など一連のコスト算定にかかる時間を短縮できる点に言及している。

リスクを最小限に抑えるのは、PMの迅速な決断力と正確な判断力

 同プロジェクトにおいて最大のプロジェクトリスクの一つは、2007年前半に発生したシンガポールとインドネシア間の政治的な駆け引きによる砂の輸出禁止措置だった。その頃、現場では基礎工事がピークを迎えており、コンクリート用に大量の砂が必要だった。
 情報を耳にした越川の動きは迅速だった。まずは状況把握のための情報を収集し、いち早く代替案の検討に入った。
 当初予定していたインドネシアから砂が持って来られないとなると、予定外のコストがかかる。その影響は億単位に膨らむ可能性もあったが、ここで決断を誤ると後にプロジェクト全体にもっと大きな損失と遅れが発生する可能性がある。「損失を最小限に抑えるため、いつ、どのタイミングで資金を投入するか。額が額だけに勇気のいる決断だが、ここがPMとしての腕の見せ所でもあり、PMという仕事の醍醐味でもある」と越川は断言する。
 加えて、コスト・レインバース契約だったため、実際にそのお金を払うのはクライアントであり、多額の支出を承認していただくには、しっかりとした資料を揃えた上で、理論的なプレゼンテーションを行い、クライアントを説得する必要があった。
 結果、見事クライアントの承認を得ることに成功。無事、マレーシアとベトナムから砂を輸入できたことで工事スケジュールへのインパクトを最小限に抑えることが出来た。
 この一件のみならず、同プロジェクトにおいてJ/V、あるいは越川に対するシェルの信頼感は揺るぎないものがあった。「一番嬉しかったのは、シェルのPD(注3)PDPDProject Directorの略。各種プロジェクトを社内の戦略レベルから管理、統括する責任者を指す。に言われた『お前に任せておけば安心して眠れる』という言葉である。まさにPM冥利に尽きる一言だった」と振り返る越川。同プロジェクトがスケジュール通りに完工できたのも、こうしたクライアント、あるいはJ/Vパートナーであるルーマス社との信頼関係がしっかりと築けていたことが要因となったのだろう。

【注3】PD
Project Directorの略。各種プロジェクトを社内の戦略レベルから管理、統括する責任者を指す。