支払い遅延、大規模な労働争議などを乗り越えた初のベネズエラ大型肥料案件 支払い遅延、大規模な労働争議などを乗り越えた初のベネズエラ大型肥料案件

PROJECT02 PMF-PROJECT
ベネズエラ国旗

クライアント:ベネズエラ石油化学公社
設備名:尿素製造設備
設備能力:アンモニア・1,800t/d、尿素・2,200t/d
建設サイト:ベネズエラ・モロン

日本大使館の協力を経て、支払い遅延を解決

 山場の一つである支払い遅延については、日本大使館が動くほどの大きな問題に発展した。その際、コーディネーションに奔走したのが現地法人代表の松井だ。松井は、本案件を機にベネズエラ地域に注力するため2009年に立ち上げた現地法人事務所の代表として赴任していた。すでに本プロジェクトはスタートして1年ほど経っていたが、赴任当初からじわじわと支払いは遅延していたという。
 「海外プロジェクトの場合、支払遅延はよくある話。ただ、今回のケースではその遅延期間が半年を過ぎてもなお、ひと月、そしてまたひと月と伸びていき、本社の方でも懸念していた」。
 ベネズエラの通貨ボリバルは、日本円から両替することは比較的容易だが、ボリバルから日本円に両替するのが非常に困難。そのため一時的に本社から送金するというわけにもいかず、ペキベンからの支払いの遅延がダイレクトに資金不足に繋がっていった。
 もちろん、プロジェクト関係者も幾度となく支払いを催促していたが、トップに面談することができず、思うような回答が得られなかったのだ。
 現地法人としての借り入れも限度額いっぱいになり、現地サブコンなどへの支払いも限界に達しようかというタイミングで、ついに加入していた日本国の機関である日本貿易保険と共に事態の収拾に臨んだ。ただ、TOYOとしても保険事故として同機構が直接動くと大事になるため、理事がベネズエラを訪れ、日本大使と参事官とともにペキベンに直談する形へと調整した。一企業の問題ではなく、国家間の問題になるぐらいの深刻な状況ということを理解してもらったのだ。そして、すぐに支払いは再開。わずか3カ月で滞納分が支払われたという。
 松井は「やむを得ず日本大使館まで巻き込んでしまったが、最悪のケースとして保険事故になることだけは免れた。現地法人の官庁担当としていい経験になったと思う」と話している。

松井 聡
TOYO-Venezuela 代表

米州営業グループ
大学院工学研究科修了 工業化学専攻
1984年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

3社のコンソーシアムを調整するという現場での難しさ

 本プロジェクトは3社コンソーシアムでの運営であり、PEM(注1)PEMPEMProject Engineering Managerの略。社内・外を問わず担当プロジェクトの設計全体を包括的に管理する立場にある。各設計の進捗度合いや、設計部署間の情報の取り合いが正確に行われているかを確認・管理する。として設計全体のマネジメントを担当した今泉は「すべてにおいて粘り強さと忍耐を要した」と振り返る。
 役割分担を明確にし、契約に基づいて連携するコンソーシアムは、資本を共有した運命共同体とも言えるジョイントベンチャーとは異なり、互いに協調してプロジェクトを遂行する気概がどうしても弱くなりがちである。
TOYOはコンソーシアムのテクニカルリーダーとして各社間の設計インターフェースを調整する役割を担っていたが、各社とも常に自社の作業を優先し、責任・インパクトを最小限に留めるようなアプローチとなってくるため、その調整には想像していた以上の労力を要した。また、実際にスケジュール遅れや不具合が判明した場合でも、それが他社の設計に影響を与えたとはそう簡単には認められず特に、2社間であれば比較的簡単に済む話も、3社間となるとその面倒、複雑さが増してくるため、粘り強く折衝することが求められた。
 このような状況下で仕事を進めるのは困難を極めたが、根気強く3社をまとめあげ、更にはTOYO-Koreaや台湾の設計サブコンも同時にマネジメントしていた今泉は「工事畑出身ということで、エンジニアリングに関する自身の底上げの必要性を長らく感じていたが、今回のプロジェクトを経てそのコンプレックスに近い感覚がだいぶ払拭された」と振り返る。
 設計段階を終え、今泉はPEMからAPM(注2)APMAPMAssistant Project Managerの略。へと役割を変え、橋本のもとで現場の指揮管理に奔走した。ここでも3社間コンソーシアムならではの難しさを肌で感じながらも着実に成長していった今泉は、現在シェル社向けプロジェクトに従事している。「今はPMとして仕事をしていますが、橋本さんの下で、あれだけタフなプロジェクトの経験を積めたのはとても良い勉強になりました。困難な状況における対人能力が、非常に鍛えられた思い出深い案件」と振り返っている。

今泉 潮
プロジェクトエンジニアリングマネージャー

プロジェクト第二本部
理工学部 機械工学科卒
1995年入社

本プロジェクトにおける担当者の役職・所属はプロジェクト実行当時のものになります。

【注1】PEM
Project Engineering Managerの略。社内・外を問わず担当プロジェクトの設計全体を包括的に管理する立場にある。各設計の進捗度合いや、設計部署間の情報の取り合いが正確に行われているかを確認・管理する。

【注2】APM
Assistant Project Managerの略。